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「世界人道デー」、中東からラテンアメリカまで強制移住の根源にある危機に注目集まる

2023年2月15日、リビアのトリポリ東方約70kmの沖合で、難破船から引きられた「行方不明者で死亡したとみられる」73人の遺体。国連の国際移住機関(IOM)によると、ボートは80人の移民を乗せてトリポリの東にあるカスル・アル・アヒヤールを出発し、ヨーロッパに向かっていたが、2月14日にトラブルに見舞われたという。(写真:リビア赤新月社/AFP)
2023年2月15日、リビアのトリポリ東方約70kmの沖合で、難破船から引きられた「行方不明者で死亡したとみられる」73人の遺体。国連の国際移住機関(IOM)によると、ボートは80人の移民を乗せてトリポリの東にあるカスル・アル・アヒヤールを出発し、ヨーロッパに向かっていたが、2月14日にトラブルに見舞われたという。(写真:リビア赤新月社/AFP)
2016年11月5日、リビア沖のトパーズ・レスポンダー号による146人の移民・難民の救助活動中、マルタのNGO「MOAS」の救助隊員が赤ん坊を抱えている様子。アフリカ、アジア、中東からの移民や難民は、より良い暮らしを求めて危険な渡航を試みている。(AFP/資料)
2016年11月5日、リビア沖のトパーズ・レスポンダー号による146人の移民・難民の救助活動中、マルタのNGO「MOAS」の救助隊員が赤ん坊を抱えている様子。アフリカ、アジア、中東からの移民や難民は、より良い暮らしを求めて危険な渡航を試みている。(AFP/資料)
2022年3月29日、ロシアによるウクライナ侵攻から34日目、ポーランド南東部のウクライナとポーランドの国境を越えた後、メディカの国境検問所でさらなる移送を待つウクライナ人難民たちの列。(AFP/資料写真)
2022年3月29日、ロシアによるウクライナ侵攻から34日目、ポーランド南東部のウクライナとポーランドの国境を越えた後、メディカの国境検問所でさらなる移送を待つウクライナ人難民たちの列。(AFP/資料写真)
2019年8月20日、難破船から移民を救助したNGO「プロアクティバ・オープン・アームズ(POA)」の船上で何日も身動きが取れず、自暴自棄になりイタリアのランペドゥーザ島近くまで泳ごうと海に身を投げた移民たちを救助するスペインの巡視船。(現地チーム/AFP)
2019年8月20日、難破船から移民を救助したNGO「プロアクティバ・オープン・アームズ(POA)」の船上で何日も身動きが取れず、自暴自棄になりイタリアのランペドゥーザ島近くまで泳ごうと海に身を投げた移民たちを救助するスペインの巡視船。(現地チーム/AFP)
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20 Aug 2023 12:08:08 GMT9
20 Aug 2023 12:08:08 GMT9
  • シリアは依然として最大の難民流出国だが、ウクライナとアフガニスタンもそれに迫っている
  • 現在進行中の複数の紛争と気候変動による大混乱により、これまで以上に多くの人々が移住を余儀なくされているということになる

ジュマナ・アル・タミミ

ドバイ:2012年3月、シリア紛争が始まってわずか1年で、自身と家族がホムスの家を追われた時、ユセフ・ベイラクダルさんは19歳だった。ベイラクダルさんの姉妹は、その夫と子どもたちだけでなく、その建物の住人全員が武装組織に殺された。

5日後、悲嘆に暮れる遺族たちはようやく、埋葬のために遺体を運び出すことが許された。「武装組織は殺戮を続け、25カ所近い近隣地域を完全に壊滅させ、100世帯を虐殺した」とベイラクダルさんはアラブニュースに語った。

ベイラクダルさんと生き残った家族は地方に逃げ、2015年までそこに留まった。しかし、戦争は彼らを追いかけ、ロケット弾は彼らの住まいの近くに着弾した。両親は都会に戻ることを選んだが、ベイラクダルさんと2人のきょうだいたちは政治活動を始めた。

2023年2月15日、リビアのトリポリ東方約70kmの沖合で、難破船から引きられた「行方不明者で死亡したとみられる」73人の遺体。国連の国際移住機関(IOM)によると、ボートは80人の移民を乗せてトリポリの東にあるカスル・アル・アヒヤールを出発し、ヨーロッパに向かっていたが、2月14日にトラブルに見舞われたという。(写真:リビア赤新月社/AFP)

「現在、私たち3人は(政府の支配下にない)アレッポの北部に暮らしており、両親に会うことはできません」と彼は語った。「私たちが二度と両親に会うことはないと確信しています」

ベイラクダルさんは、紛争、迫害、自然災害、ビジネス・チャンスの欠如によって避難を余儀なくされている世界中の数百万人のうちの1人に過ぎない。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2011年にシリアで紛争が始まって以来、1,300万人のシリア人が出身地や居住地を離れ、国内の他の地域や近隣諸国などで避難生活を送っている。

約560万人のシリア人が海外に避難し、690万人が国内避難民となっている。その後、帰国したシリア難民もいるが、支援機関では正確な人数を把握することは困難である。

シリアが最大の難民流出国であることに変わりはないが、ウクライナ、アフガニスタン、ベネズエラ、南スーダン、ミャンマーがそれに僅差で続いている。

「国際社会からの保護を必要とする難民やその他の人々の約52%は、たった3カ国からの出身です。シリア(650万人)、ウクライナ(570万人)、アフガニスタン(570万人)です」とUNHCRのニュース・報道責任者であるマシュー・ソルトマーシュ氏はアラブニュースに語った。

「もちろん、難民を大量に生み出している国は他にもたくさんあります。いくつか例を挙げると、スーダン、南スーダン、ベネズエラ、ミャンマーなどです」

実際に、4月15日に始まったスーダンの武力衝突によって、約430万人が家を追われて避難生活を余儀なくされている。赤十字国際委員会(ICRC)によれば、320万人以上が国内避難民となり、90万人が近隣諸国に逃れ、19万5,000人の南スーダン国民が帰国を余儀なくされている。

結果として生じた人道危機は、より広い地域を不安定化させる危険性にさらしており、スーダンと国境を接する国々の多くは、数十年にわたる紛争、政治的・経済的不安定、飢餓、干ばつに苦しんでおり、国際支援を必要としている。

ICRCの地域報道官であるイメーヌ・トラベルスィー氏は、アラブニュースに対し、「スーダンは、今回の紛争が始まる以前から、すでに100万人以上の難民を受け入れており、深刻な国内避難民・難民危機を経験していたことを忘れてはなりません」と語った。

国連の統計によると、現在、世界中で1億1,000万人近くが難民として分類されており、これは過去10年前の2倍にあたる。

ウクライナ戦争を含む、現在進行中の複数の紛争と気候変動が相まって、これまで以上に多くの人々が家を追われ、比較的安全な場所を探すために思い切って危険な道を通らざるを得ないことが多い、とソルトマーシュ氏は語った。

「人間が平和を築くことよりも、戦うことの方が得意になってしまったかのように思える時があります」と彼は続けた。「国際社会が一丸となってこの人類の悲劇に対処し、紛争を解決し、永続的な解決策を見出すために行動しなければ、この恐ろしい風潮が続くでしょう」

「強制移住の根本的な原因とその影響に対処するため、緊急かつ迅速な集団行動が必要です」

このような暗澹たる状況には、難民を再定住させ、持続可能な生計を立てる機会を提供したり、自発的に出身地に帰還できるよう支援したりするなど、解決策を見出すために協力している国や地域社会という、一部の明らかな例外もある。

しかし、人道支援機関は、政府が外交を通じて平和を推進するために十分な役割を果たしていないばかりに、紛争や大規模な強制移住が絶え間なく続いていると考えている。

ノルウェー難民評議会(NRC)で東アフリカとイエメンのメディアアドバイザーを務めるカール・シェンブリ氏は、アラブニュースに対し、「国際社会は戦争を防ぎ、戦争を終わらせるために多くのことができる」と語った。

「外交官たちの道具箱には、さまざまな文脈で、戦争当事者に圧力をかけ責任を追及するために使える手段が多数あります。これほど多くの戦争が続いているという事実は、何ができるかということよりも、政治的な関与への意欲レベルを示していると言えるでしょう」

「特にその国々自身が戦争に参加している裕福な国々は、こうした人災の難民・犠牲者を支援するために必要な資金をすべて提供することができます」

2021年6月24日、リビアとの国境に近いチュニジア南部のベン・ゲルダンにあるエル・ケテフ港で、ボートで地中海を渡ろうとしていたところをチュニジアの国家警備隊に救助された南アジアからの移民たち。チュニジアとリビアは、北アフリカ沿岸から欧州、特にイタリアへの危険な横断を試みる移民たちにとって重要な出発点である。(AFP/資料写真)

シェンブリ氏によれば、NRCをはじめとする人道支援機関は、治安情勢によって活動できる場所であればあらゆる地域で活動し、経済的支援や法的支援からシェルター、食料、水、教育まで、さまざまな支援活動を行っているという。

その他の人道支援機関は、離れ離れになった難民が家族と再び連絡を取れるよう支援している。たとえば7月以降、赤十字国際委員会(ICRC)はチャドに逃れた558人のスーダン難民を故郷の親族と再会させた。

しかし、世界各地で同時多発的に発生する危機への対応が資金援助者たちに求められる中で、資金が減少していく状況が、人道支援活動にとってますます大きな課題となっている。解決策が見つかるまで、各国政府は難民に安全で合法的な移動を確保する必要がある、と支援機関関係者は語った。

「富裕国であるほど、安全性と連帯を政策の中心に据えることができます」とソルトマーシュ報道官は語った。「今まさにニュースになっているように、地中海に目を向ければ、人命を救うためには、地中海沿岸のすべての国家間の更なる協調、連帯、責任分担といった集団的努力が不可欠です」

2017年11月6日、地中海で難破船の被災者を救出する活動中、ドイツのNGO「シー・ウォッチ」の救助隊員が移民をボートに乗せるのを手助けしている。新生児を含む5人が死亡し、58人の移民が救出された。(AFP)

「これには、私たちが提唱し続けている、海路で入国した人々のための、合意による域内での下船と再分配の仕組みの確立も含まれます。海上で遭難した人々を遅滞なく救助する義務は、国際海洋法の原則です」

「紛争や迫害から逃れることを余儀なくされた人々のために、より安全な経路を確保することも重要であり、その一方で、密入国請負業者や人の移動の混乱につけ込む輩を取り締まる必要があります。最終局面は、安全を求めて危険な旅に出ることを思いとどまらせるような状況を母国で作り出すことです」

国際移住機関(IOM)の「行方不明移民プロジェクト」によると、今年に入ってから6月9日までの間に、地中海を渡って欧州に向かおうとした1,166人が死亡したか行方不明となっている。

「政治は、貧困や雇用の欠如といった移住の根本的な原因に対して対処してきませんでした」と、アンマンでNRCの地域メディア・コミュニケーション・アドバイザーを務めるアーメド・ベイラム氏はアラブニュースに語った。

「誰だって故郷を離れたくはないのだから、国際社会はなぜ人々がそのような決断をせざるを得ないのか、真剣に考える必要があります」

「国際社会は、戦争が終結するまでに何年もの歳月を要するのを阻止するために、まだ全力を尽くしていないと言ってよいでしょう。政治情勢が紛争地帯を越えて展開し、それがさらに戦争に拍車をかけました」

「人道支援機関として、私たちは被災者を助けるためにこれまで行われてきたことに目を向けます。難民の数は過去最高となっています。災害、干ばつ、貧困、雇用や教育の機会不足など、戦争と気候変動がもたらした波及効果は、被害を受けた地域社会全体に及んでいます。その影響は今後何世代にもわたって続くでしょう」

大人になってからも難民として過ごしてきたベイラクダルさんにとって、12年にも及ぶシリア内戦を解決するためには国際社会が協調して行動することだけが、家族の再会を可能にし、地域社会を癒すことにつながる。

「私たちは常に、難民を支援することを考えており、強制移住を止めようとか、強制移住が起こった理由を調べようということは考えていません」とベイラクダルさんはアラブニュースに語った。

「強制移住を阻止するには、強制移住の理由をなくさなければなりません。(しかし)(国際社会の)政治家たちは、私たちが感じている痛みを感じていません。彼らは私たちのように愛する人を失っていません」

ユセフ・ベイラクダルさん。(提供)
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