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ウクライナ危機、中東での戦略シフトに寄与

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05 Apr 2022 02:04:18 GMT9
05 Apr 2022 02:04:18 GMT9

今週、ロシア・ウクライナ間でさらなる協議が行われる見込みだが、1ヶ月の紛争が中東の戦略的構造の変容に影響を与えてきたという兆候はすでにある。

まず、この地域におけるグローバル・プレイヤーの立場についてだ。中東のグローバル・プレイヤーと、そのグローバル・パワーとのつながりについての分析の多くでは、この地域におけるパックス・アメリカーナがより多面的な段階に変容したかどうかが議論されてきた。米国が中東から完全に撤退することはないように見えるが、これはおそらく昨年のアフガニスタンからの撤退を踏まえれば予想されることだろう。一方、米国やNATO加盟国・同盟国を含むこの地域のグローバル・プレイヤーがウクライナ危機において示している中立性は多極化へのシフトを浮き彫りにする。

近年のロシアの主要政策――つまり、反欧米政策と多極化世界の構築――は、特にグローバル・パワーとしての地位を獲得することを目指してきた。ウクライナ紛争は、この地域がすでに米国に加え、他のグローバル・プレイヤー(欧州の大国、ロシア、中国、インドを含む)の地政学的重要性を考慮していることを明らかにした。

地域レベルで、ウクライナ危機が世界情勢に基づく政策の施行に寄与していることも事実だ。たとえば、昨年、多くのアラブ諸国がアサド政権との関係性を正常化しようとしたのは、主に、関係回復によりシリアにイランとの関係を改めるよう働きかけることができるという想定に基づいていた。だが、先月のアサド大統領のUAEへの歴史的訪問でも見られたように、最近の世界情勢は間違いなくプーチン政権との関係発展につながっている。その見返りとして、ロシアはこの地域でのイランの政策に対してより行動的な姿勢を示すことが期待されているかもしれない。特に、イラン政府の支援を受けたフーシ派がサウジアラビアとUAEを攻撃し続けている現状があるためだ。ウクライナ戦争がすでに十分複雑であるイランとロシアの関係をより困難なものにしているため、短中期的にこれは可能かもしれない。

1月、ロシアの侵攻開始に先立ち、イランのエブラヒム・ライシ大統領はモスクワを訪問した。この訪問で、ライシ大統領は反西側的なレトリックを通じてロシアとより強いつながりを確立することを目指し、西側との緊張が続くロシアの言説に支持を表明した。ライシ大統領は、「支配の戦略」は失敗し、米国は現在「これまでで最も弱い立場にある」と述べた。また、NATOを糾弾し、「独立国家の共通の利益を脅かす新たな支配を様々な地理的領域に浸透させている」と非難した。とはいえ、この訪問はイランでは批判を受けた。特にライシ大統領が手ぶらでロシアを去ったためだ。達成されなかった事項には、ロシア・イラン間で20年間続いた協力協定が終了し、更新が確定しないままであることなどが含まれる。

今回の紛争は、この地域がすでに米国に加え、他のグローバル・プレイヤーの地政学的重要性を考慮していることを明らかにした。

ダイアナ・ガリーヴァ博士

両行の関係におけるもう一つの課題は、「包括的共同行動計画」(Joint Comprehensive Plan of Action)の核合意の最終締結である。協議が妥結に近づいたように見えた先月、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は制裁免除に関する新しい要求を強調した。「西側諸国が雪崩のように(ロシアに)課し始めた攻撃的な制裁」により、ロシアは米国に保証を求めならないため、新しい制裁が核合意の下の権利に影響しないという明確な答えが必要であるとしている。

ロシアの新たな要求に対するイランの最初の公式の反応の一つは、アリ・シャムカーニ最高国家安全保障会議長官がTwitterに投稿した発言だ。「ウィーンの参加国は利益に基づいて行動、反応するもので、それは理解できる。我々の交流も…すべて我が国民の利益のためだ」

「そのため、我々は交渉に影響を与える新たな要素を評価し、それに応じて早期解決のための創造的な方法を模索する」

ロシア政府は2015年の核協定の復活を妨害するという脅しは撤回し、約1年間の協議の末に合意への可能性を開きはしたが、世界はまだその最終的な成立を目にしてはいない。

さらにイランはJCPOAに復帰する可能性によって、カタールと同様、ロシアと経済的に競い合う立場になるかもしれない。イランとカタールは、それぞれ世界第2位と第3位のガス埋蔵量を保持している。

同時に、イランやイランが支援する民兵組織に対抗するため、中東の地域プレイヤーは、敵対国のバランスをとるというロシアと同様の方針をとっているように見える。たとえば、ロシアは、イスラエル、イラン、湾岸諸国を含むすべての地域パートナーと良好な関係を保っている。地域プレーヤーは、グローバル・パワーとの関係のバランスを効果的に保っているのだ。

ロシアの行動に対してほぼ中立の立場をとりながら、先週、初の多国間アラブ・イスラエル首脳会議が開催された。イスラエルと米国、そしてUAE、バーレーン、エジプト、モロッコのアラブ4ヶ国の外交トップが一堂に会し、ロシアと中国を重視する米国に対し、この地域への関与を続けるよう求めた。また、米国のアントニー・ブリンケン国務長官に対して、イランが核開発を抑制する代わりに、イランの主要軍事力であるイスラム革命防衛隊を外国テロ組織リストから排除することをしないようにはたらきかける機会でもあった。これは、近い将来、私たちは新たな地域戦略アーキテクチャーの出現を目撃するだろうことを示唆しているのかもしれない。

  • ダイアナ・ガリーヴァ博士はオックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジのアカデミックビジター。『Qatar: The Practice of Rented Power (Routledge, 2022) Russia and the GCC: The Case of Tatarstan’s Paradiplomacy (I.B. Tauris/Bloomsbury, 2022)2冊を執筆。また、全集『Post-Brexit Europe and UK: Policy Challenges Towards Iran and the GCC States (Palgrave Macmillan, 2021)の共同編集者でもある。
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