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ロシアと西欧諸国は新たなパワーバランスを築く必要がある

パリのエリゼ宮殿で報道陣と対話するフランスのエマニュエル・マクロン大統領とイェンス・ストルテンベルクNATO事務総長。2021年5月21日。(AFP)
パリのエリゼ宮殿で報道陣と対話するフランスのエマニュエル・マクロン大統領とイェンス・ストルテンベルクNATO事務総長。2021年5月21日。(AFP)
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01 Mar 2022 01:03:03 GMT9
01 Mar 2022 01:03:03 GMT9

ロシアのウラジミール・プーチン大統領は先週、ウクライナへの軍事攻撃を命じた。これは、ドネツクとルハンスクの2つの独立国家を承認する法令に署名した2日後のことだった。

標的となったウクライナの軍事施設が破壊された結果として、特にNATOやEUからの具体的がない現時点では、ウクライナで起こりつつある出来事を覆す見込みはないように思われる。NATOやEUの加盟国の対応は、強い語調の声明で、ロシアの軍事行動を非難したり、渡航制限や銀行口座の封鎖などの経済制裁を宣言するというものだ。このような制裁がロシアの思惑の抑止につながることはほとんど期待できない。ロシア政府はおそらく、ウクライナがプーチン大統領の提示する条件での解決策に応じるまで攻撃を続けるだろう。

NATOとEUは、真摯な努力にもかかわらず、ロシアによるウクライナへの軍事介入を阻止することはできなかった。平和維持・平和強化において国連システムは十分な効果を持たないことが証明された。国際社会はこの失敗から教訓を導き出さなくてはならない。

ドイツがガスのパイプライン「ノルドストリーム2」プロジェクトの認証プロセスを直ちに停止させたことは注目に値する。これは、重要な一歩だった。プロセスの停止はロシアの脆弱な経済にマイナスの影響を与えるだろう。だが、最終的にはどちらにとっても特にならない状況でもある。この制裁がロシア経済を崩壊させるかどうかは疑問だ。過去にも米国の制裁でイランの経済が弱体化したことはあったが、経済崩壊には至らなかった。ロシアの経済はイランよりもさらに大規模で多様性があり、より回復力を備えていることすら証明されるかもしれない。

米国は、ロシアのウクライナに対する軍事行動にNATOが対処できなかったことを利用して同盟を活性化し、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が2019年に「脳死 状態」と表現した状態から救おうとするかもしれない。

ウクライナの原罪は、2008年にNATO加盟行動計画の開始を申請したことだったかもしれない。その後、ウクライナはEUとの連合協定の締結に向けても動き始めた。だが、2010年の大統領選挙で親ロシア派のヤヌコビッチ氏が勝利した時点で、この2つの構想は後回しにされた。ヤヌコビッチ大統領は、ウクライナを非同盟のままにしておくことを望んでいた。

しかし、ウクライナ国民はこの両組織への加盟をあまりに強く支持したため、ヤヌコビッチ大統領はその圧力に耐え切れず、国外に脱出せざるを得なくなった。

ウクライナでは、これまでNATO加盟に対する支持率は低かった。ヤヌコビッチ大統領時代は、支持率は28%にまで低下した。ロシアによるクリミア併合の後、ようやくそれが69%にまで上昇した。

その後、NATO加盟国の間では、ウクライナを加盟させるかどうかで意見が分かれた。ウクライナが加盟すれば、ロシアとウクライナの紛争を同盟内に取り込むことになるためだ。このどっちつかずの態度のために、ウクライナは大きな代償を支払うことになった。

先週のロシアの軍事行動開始を受け、アンカラのウクライナ大使はモントルー条約19条に基づく権利を行使し、ロシア軍艦がトルコ海峡を通過することを阻止するようトルコに正式に要請した。だが、トルコのメヴルト・カヴソグル外相は、ロシアの基地に向かうロシア海軍の艦船の海峡の通過は許可されると返答した。カヴソグル外相の回答はこの問題のすべての機微を反映するものではない。第19条では「トルコが交戦国でない場合の戦時下において…交戦国の艦船は海峡を通過してはならない」と規定されている。ここではっきりしないのは、我々が厳密に条約の規定する「戦時下」にあるのかどうかということだ。ロシアもウクライナも正式な形で宣戦布告していないためだ。

ウクライナのいくつかの都市では都市ゲリラ戦が続いており、訓練を受け、何年も戦闘経験があるウクライナ市民たちが強固な抵抗を見せている。

一方、ロシアは包囲され内陸に追いやられたと感じている。エストニア、ラトビア、リトアニアがNATOに加盟したことで、バルト海へのアクセスがサンクトペテルブルクとカリーニングラードのみに限られたためだ。ユーゴスラビア解体後は、アドリア海へのアクセスも失った。さらには黒海沿岸のブルガリアとルーマニアもNATOに加盟したため、海上軍事的脅威はロシアにあまりにも迫ることになった。これにより不安を感じたロシア政府は、国境付近に安全地帯をつくろうとした。

今回の危機は、国際関係を統制するルールの根本的な変化につながる可能性が高い。旧ソ連の領土を少しでも多く取り戻そうというロシアの飽くなき欲望を防ぐことは、今後も国際社会の重要な関心事であり続けるだろう。ロシアと西欧諸国の間に新たなパワーバランスが構築されない限り、この緊張は緩和されることはないだろう。

  • ヤサール・ヤキス氏はトルコの元外相で、公正発展党(AK党)の創立者の一人。Twitter: @yakis_yasar
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