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イランのソレイマニ司令官に対する爆撃

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03 May 2020 03:05:34 GMT9
03 May 2020 03:05:34 GMT9

マジド・ラフィザデー博士

  • 中東地域の多くの人々にとってイランのゴドス軍司令官カセム・ソレイマニはオサマ・ビン=ラディンと何ら変わらない存在であった

概要

2020 年 1 月 3 日、米軍の無人攻撃機リーパーから発射されたミサイルがバグダッド国際空港を出る 2 台の車に命中し、イランの精鋭部隊ゴドス軍司令官として恐れられていたカセム・ソレイマニとその他 9 名を殺害した。

ソレイマニは20年以上に渡り中東におけるイランによる暴力的な干渉の首謀者であり、イラク・シリア・イエメンなどにおいて数千人もの命を奪った人物である。

彼の死の翌日のアラブ・ニュースの社説の言葉を借りれば、「聖職者(ムッラー)たちとその革命の悪の影響を、それに聞く耳を持つような愚か者たちに広めた」ソレイマニは「中東に限られない広域に死と破滅をもたらした。」I

イラクにおけるアメリカの関連施設に対する複数の攻撃の首謀者と名指しされたソレイマニ自身が死を迎えると、彼と共に死亡した者にはイランのイスラム革命防衛隊員 4 名と、イランの後ろ盾を受けたイラクのテロ組織カターイブ・ヒズボラの司令官アブ・マフディー・アル=ムハンディスが含まれていた。

今年 1 月 3 日、アメリカのドナルド・トランプ大統領は情勢を一変させる軍事攻撃を命令した。これによってイランのゴドス軍司令官カセム・ソレイマニ将軍がバグダッド国際空港近辺で殺害されたのだ。ソレイマニには、これまたこの攻撃で殺害されたアブ・マフディー・アル=ムハンディスを含むイラクの民兵組織の指導者たちが付き添っていた。アメリカ国防省は、ソレイマニが「イラクおよび中東全域に滞在するアメリカの外交官ならびに軍関係者に対する攻撃を積極的に画策していた」として、攻撃を正当化した。

ソレイマニの死はアメリカがイランの政府要人を意図的に殺害した初めてのケースだ。この行為は間違いなく世界を驚かせ、イランの神権政治の中枢を弱体化させた。ソレイマニはイランで最高指導者アリー・ハメネイ師に次ぐ権力を持つ人物と目されていたからである。

 

ソレイマニの力無くしてイラン・イスラム共和国が地域における強大な影響力と広範囲に渡る代理勢力や民兵組織、テロリスト集団のネットワークを保持できたとは到底想像出来ない。米軍大将デヴィッド・ペトレイアスに送った希少な書簡において将軍自身がこう認めている。「イラク、レバノン、ガザ、およびアフガニスタンに関するイランの政策は私カセム・ソレイマニが管理していることをあなたは知っておくべきだ。そして現にバグダッドにいる大使はゴドス軍の一員である。彼を引き継ぐ人物もまたゴドス軍の一員だ。」

ソレイマニの死は、パワーバランスにおいてイランの損失となり、中東からテロの指導者が居なくなったということで、地域に多大な影響を与えた。

中東地域の多くの人々にとってソレイマニはオサマ・ビン=ラディンと何ら変わらない存在であった。事実、国家の正統性の元で活動し、何万もの兵力を有する強力な軍事組織を支配し、自身の原理主義的目的を達成するために何十億ドルもの予算を持っていたことを考えると、ある意味彼はより危険な存在であったといえる。

主要な日付

  • 1

    ソレイマニが同盟関係にある民兵組織幹部とバグダッドで会合し、イラクにあるアメリカの関連施設を対象としたイランが提供するロケットやミサイルを使った新たな攻撃を計画していた、とされている。

  • 2

    イラク・キルクークにある K-1 空軍基地に対するロケット砲撃によってアメリカの軍事請負企業関係者が死亡。これは米国政府がイランの支援を受けた民兵組織カターイブ・ヒズボラの犯行であると主張するイラクにおける一連の攻撃の1つである。

    Timeline Image 2019 年 12 月 27 日
  • 3

    イラクとシリアにあるカターイブ・ヒズボラの拠点 5 箇所に対して米軍が報復攻撃を行い、複数の司令官を含む民兵 25 名を殺害。

    Timeline Image 2019 年 12 月 29 日
  • 4

    カターイブ・ヒズボラの支持者がバグダッドにあるアメリカ大使館の敷地内への侵入を試みる。ドナルド・トランプ大統領は「その責任はすべて」イランにある、と述べる。

  • 5

    ソレイマニがキルクークにおけるロケット砲撃を承認し、さらなる一連の攻撃を画策していたという「明確で疑いの無い情報」に基づいて、トランプはドローンによる攻撃を許可。

  • 6

    バグダッドでの米軍のドローンによる爆撃によってソレイマニおよび他 9 名が殺害される。

  • 7

    米軍が駐留するイラクの基地 2 箇所に対してイランがミサイルを発射。犠牲者は出なかった。しかしテヘランを出発したウクライナの航空会社の飛行機が撃墜される。

    Timeline Image 2020 年 1 月 8 日
  • 8

    イラン政府がウクライナ国際航空 752 便を誤って撃墜したことを認めたため、テヘランで政府に反対する抗議活動が起き、指導部の退任を要求。

    Timeline Image 2020 年 1 月 11 日

ソレイマニは支配地域外におけるシーア派民兵組織の組織化、支援、訓練、武装化、および資金援助などの活動に卓越していた。彼は代理勢力を通じた直接的ならびに間接的な紛争行為、イラン政府のイデオロギーや覇権に関する利権を推し進めるための他国政情の不安定化、都市や国家に対する攻撃および侵略、ならびに他国の政治家や世界中に散らばるイランの体制反対派の有力者の暗殺を優先して実施した。

「よってカセム・ソレイマニに涙するものがあってはならない。彼は自身も罪を償わずに生き続けることは出来ず、自分がベッドで死ぬ者ではないことを知っていたはずだ。」

2020 年 1 月 4 日付アラブ・ニュースにおけるファイサル・アッバスの言葉

例えば、彼の指導下においてゴドス軍は米国内のサウジアラビアならびにイスラエル大使館における未遂に終わった爆弾攻撃や、当時サウジアラビア の在アメリカ大使であったアデル・アル=ジュベイルを暗殺する計画に携わっていたことが疑われている。またゴドス軍はイラクにおいてイラク人やアメリカ人を含む多くの犠牲者を出すことになる精密で致命性の高い爆弾を提供して政情不安を煽った。 2005 年に起きたスンニ派のレバノン首相ラフィク・ハリリの暗殺もまた、ソレイマニのゴドス軍が関わっていたことが後の捜査で判明している。

さらにソレイマニの死は地域のシーア派以外の過激派組織の弱体化にも役立った。彼はアルカイダなどとの同盟に成功していたためだ。例えば、ソレイマニ指揮下のイラン軍部は 9・11同時多発テロ事件に関与していたとされている。 2011 年、米連邦判事ジョージ・ダニエルズはこの事件に関してはゴドス軍、レバノンにおけるイランの代理勢力であるヒズボラ、およびアルカイダの幹部に同等に責任があるとする判断を下した。とあるヨーロッパの諜報分析官によれば、イランは「アルカイダの指導者たちに安全地帯」を提供し、同時に「(ゴドス)軍幹部はアフガニスタン陥落以来アルカイダと長期に渡る関係を維持しており、アルカイダ幹部複数に対して渡航書類や安全地帯を提供していた」という。米国海軍退役司令官のクリストファー・ハーマーがニューヨーク・タイムズに語ったところによれば、ソレイマニは「オサマ・ビン=ラデンをより国家的にしたような人物である」という。

アラブ・ニュースのアーカイブから、 2020 年 1 月 4 日付のニュースを伝える記事

ハーバード大学における私の研究にもとづくと、世界には様々な宗教的・社会政治的背景を持つ 250 以上のテロリスト集団が存在する。ソレイマニの指揮のもと、これらの組織の内およそ25% が彼の組織の資金援助、訓練、または支援を受けていた。アルカイダなどのテロリスト集団がイランを攻撃しなかったことの説明はこれでつくのかもしれない。

イランの支配層聖職者たちは代えの効かない将軍を失った。ソレイマニは40 年に渡って地域の至る所で多くの民兵組織の指導者たちと個人的な深い繋がりを築いていた。彼とゴドス軍はシリアやイラクなどいくつかの国の安全保障、政治、諜報、軍事の活動基盤に潜入していた。イラク、イエメン、レバノン、およびシリアにおいて彼はどの指導者や政治家が実権を握るかについて多大な影響力を持っており、彼の諜報員やエージェントは世界中に存在していたのだ。

ソレイマニの死はイランの神権政治の中枢に甚大な被害を与えたのみならず、中東から最も危険な人物が居なくなったことを意味する。にもかかわらず、イラン政府はその覇権への野望と軍事的冒険主義を追い求めるためには手段を選ばない状態はこれからも続くのである。

  • マジド・ラフィザデー博士はイラン系アメリカ人の政治学者である。彼はイランとアメリカの外交政策に関する世界的権威であり、企業家、さらにインターナショナル・アメリカン・カウンシルの会長という顔も持つ。Twitter: @Dr_Rafizadeh
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